「フェリシダーヂ (A Felicidade)」

2013.5.15

GROOVY TUNES 100 / 私の好きな曲(These are a few of my favorite songs)

#5「フェリシダーヂ (A Felicidade)」

 この曲のタイトルをポルトガル(ブラジル)語の辞書で引いて、驚いた。何と「幸せ」という意味だった。ブラジル音楽の中で、私のベスト10に入る「フェリシダーヂ」は、物悲しく、切ない。どう考えても、薄幸なイメージだ。ブラジル音楽のキーワードのひとつである「サウダーヂ (saudade)」は、望郷、郷愁、寂寥という意味で、この「フェリシダーヂ」という曲にこそ、その「サウダーヂ」が色濃い反映されているように、私には感じられる。

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Original Sound Track / ORFEU NEGRO (1959)

 映画『黒いオルフェ (ORFEU NEGRO)』で最初にお披露目されたという事だが、映画は大昔に見た気もするが、音楽の事は全く記憶がない。それで、買ったままで放置されていたVHSで見る事に。何と冒頭のタイトル・バックでこの曲が流れる。フランス映画だからでもあるが、私が持っているのはフランス語版。曲もフランス語で歌われる。訳が字幕に出るのだが、やはり内容は「悲しみは果てしない。幸せは朝露のようにはかなく、鳥の羽根のように吹いたら飛んで行ってしまう,,, 」といったもので、反語的なタイトルだった。なるほど、そういう事か。
 
 アントニオ・カルロス・ジョビン <ANTONIO CARLOS JOBIM>が曲を書き、ヴィニシアス・ヂ・モライス <VINICIUS DE MORAES>が歌詞を書くという、ブラジル音楽界最高のコンビによる作品のひとつだが、名曲中の名曲にふさわしく、カヴァーのされ方も尋常ではない。私の手元にあるだけで、20ヴァージョン以上ある。だから、いつものような「起承転結」的に並べるのは難しいので、思いついたまま、列挙して行こう。
 
 まずはオリジナルと言っていいだろうジョアン・ジルベルト <JOÃO GILBERTO>の1959年の録音で、ボサノヴァのシンコーペイションのあるリズムだが、打楽器の入り方がサンバ的で、両者のリズムが渾然一体となっていると言っていいのだろうか。ボサノヴァはサンバの発展形とも言われるので、それが未分化の状態にあるのだろうか。私は、リズムの区別が明確には出来ない。それはキューバ音楽も同じで、楽器が出来ない弱味だ。いずれにせよ、ジョアンの歌はすでに後に歌い継がれる事になるこの歌のイメージをすでに映し出している。儚く脆い幸福のように。
 
 ジャズで挙げるといくらでもあるのだろうが、ラムゼイ・ルイス・トリオ <RAMSEY LEWIS TRIO> の演奏(『THE IN CROWD』1965)くらいまでが私の範囲。でもこのトリオのグルーヴ感に溢れた「The “In” Crowd」に較べたら、オーラが無い。リズムがものになっていないのが一因。 同じインスト・ナンバーでも、本場物のミルトン・バナナ・トリオのものは、リズムの捌(さば)け方が、軽快で切れているが、このグループ自体はあまり好んで聴いたりはしていない。そつのないうまさが、私の気に入らないのだ。

 私の好きな女性歌手のものも揃っている。マリア・クレウーザ <MARIA CREUZA>、ガル・コスタ <GAL COSTA>、それにジョイス <JOYCE>だが、それぞれが『ジョビンとモレイスに捧ぐ』とか『ジョビンを歌う』といったアルバムを発表している。ヴェテランの域に達すると皆、この二人の先達に対するオマージュをこめたアルバムを出す。マリア・クレウーザは『MARIA CREUZA CANTA VINICIUS』で、丁寧で落ち着いた歌を聞かせる。大人の女性の味。ガル・コスタも『GAL COSTA CANTA TOM JOBIM / AU VIVO』という2味組のライヴ盤(DVDにもなっている。ちなみにAu Vivoとはライヴという意味)で、成熟した歌い回しで、情感をこめて歌う。そして、会場の特に女性客が合唱するところに私は感動してしまう。そしてジョイスのは、ギター中心のシンプルなアレンジだが、ジョイスのもつモダンな感覚がうかがえる歌で、性格なのか、あまり大仰にはせず、むしろ淡々としている。逆にマイーザ <MAYSA>のは切なさに満ちていて、悲劇的な色合いが強い。
 
 そしてさらに私の好きな二組の歌い手たち。クララ・ヌネス <CLARA NUNES>はボックス・セットの一枚として発表された『RARIDADES』というレア・アイテム集の中に入っているが、お蔵入りしていたとは思えない、ストリングスも豪華に配され、リズムも洗練されたアレンジで、クララ・ヌネスの自信に満ちた中に、物悲しさを漂わせた「フェリシダーヂ」が歌われる。そして、わがクアルテート・エン・シー <QUARTETO EM CY>のは、唯一無二で独特なハーモニーが素晴らしい展開を見せ、同様にジョビン=モライス作品である「イパネマの娘」「Chega De Saudade」とのメドレーになっていて、息をもつかせない。
 
 近年のものでといいのがクアルテート・ジョビン・モルレムバウム <QUARTETO JOBIM-MORELENBAUM>(同名アルバム、1999年)で、チェロも効果的に響かせる洗練されたアレンジの中にも、ヴォーカルの絡みもリズムも感じがよく、何よりも寂寥感が漂っているのがいい。YACHINES & MISS LEVERという知らないアーティストのものも、儚く美しい。
 
 とにかく、この「フェリシダーヂ」の取り上げられ方は百花繚乱の有様で、これからも私を楽しませたり、悩ませたりし続けるだろう。

 同じ『黒いオルフェ』の挿入歌である「カルナヴァルの朝(Manha De Carnaval)」も、「フェリシダーヂ」以上にサウダーヂに満ちた曲だが、これについては後日に。

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